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荻田浩一退団の意味 [ヅカ的近況]

「鬼才」鴨川清作のように、早死するんじゃないかとは思っていた。でもそれが、タカラヅカからの死=退団になるとは。

これまで、40歳前後という若さで、ファンにこれだけ支持されて、なのに退団してしまった演出家っていたんだろうか。私の数少ない知識では、戦前ならともかく、戦後はいないように思う。それだけ、発表の機会が保障されている、いい職種なんだろうに。

でも、ファンならわかる。『A-“R”ex』で、時間が足りないからといってフィナーレを直前にカットした。『凍てついた明日』のワークショップでは、初演時にあったフィナーレを最初からカットした。そもそも、『ロマンチカ宝塚'04』のロケットは足を出してないし、『TUXEED JAZZ』だってロケットはタップで濁し、『タランテラ!』では大階段のセット状況を見せてしまうという裏技まで登場。そして『ソロモンの指輪』はフィナーレどころかロケットもデュエットダンスもなし。ヅカの伝統と言われる様式、これがあって当然と思われているもの、そういう制約がイヤなんだろうってことは、わかってた。わかってたよ。

だって、私も、オギーが排除したフィナーレやロケットやデュエットダンスは、どうしても必要だとは思わない。「大階段のフィナーレが大好き! あれ見てると恍惚としちゃうの!」というヅカファンもいるけど、私はそうでもない。無しでもかまわない。オギーがやりたくない気持ちもわかる。

オギーがタカラヅカで見ていた夢。それは大階段とかロケットとかの定型的な豪華さではなく、儚いジェンヌという存在。ここではないどこか(時にそれが「死」を意味する)。残酷さ、痛み…、そして、それらの美しさ!

でも、それってさあ、ヅカ以外で実現できるのかな? 正直なところ、今までのヅカ以外のオギー芝居って、重たさと暗さがメインになっちゃって、本来の美しさが発揮できてないと思ってた。(本来って何が本来か、オギーの見解と私の見解は違うんだろうけど。)彼のあの退廃的な美しさは、タカラヅカの豪華な衣装や装置、儚いフェアリーあってこそのものなんじゃないの。特にショーは、タカラヅカ以外ではあれだけのお金はかけられまい。

美しいけど不自由な世界にい続けるか、美しさはないけど自由にやりたいことができる場所へ飛び立つか。なぜその二者択一をしなければならないのか。タカラヅカってなんでもありだと思ってたのに。オギーみたいな作家がいるタカラヅカってすごい、と思ってたのに。

オギーというあれだけの才能のある人材がタカラヅカを去るのなら、私もいつまでヅカファンでいるのだろう。オギーをつなぎとめておけないタカラヅカは大丈夫なのか。そもそも、なんで自分はタカラヅカが好きだったんだろう。…悲観的だけど、どうしてもそう思ってしまう。

もちろん、表現手段の制約以外にも、我々には見えないところでの徒弟制度の問題とかもあるのかもしれないしね、ほんとのところはわからないけどね。

愛しているけれども去る。きっとそうなのだと思う。そう思いたい。演出家がやめるときは、定年であってもどこにも挨拶が載らないし(だから御用記者が記事にした。はじめて、御用記者の存在意義を理解した)、シャイなオギーは自分の思いをきっとどこにも語らないだろうから、その真意はわからない。小さな蜘蛛は怯えて逃げてしまうから、追ってはいけない。

けれども、退団の知らせを聞いてあらためて、彼の思いが『ソロモンの指輪』にこめられていることに気づく。

「夢を指輪にとじこめ、はてしない地平を旅する」

タカラヅカのスターそのものを指輪にたとえ、指輪を劇場にたとえ、指輪をはめているミストレスはヅカファンでもありオギーでもあり。シナちゃん(山科愛)と手に手をとって去っていくラギ(柊巴)はオギーでもあり、小さいのに大きく見せているキリンのシナちゃんが、身体は大きいのに小心者なオギーそのものでもあり、血染めでセリ下がるミズ(水夏希)がスターであると同時に、オギーの去る姿でもあり。そして最後、がしゃーんという音とともに幕が降り、タカラヅカでのオギーの夢の世界が閉じられる。

いつかまた戻ってきてあの扉をあけてほしい。何十年だって待ってる。みんなそう思ってる。だけどきっと、笑顔で「あの世」へと去って行くボニーやクライドを、止めたくても止められない、全然理解できてない、テッドやネルみたいなものなんだろうなあ、我々ヅカファンは。

ニケに手をひかれて、自分の義務から解放され、シンプルな白い服にベージュのコートで「あの世」へと去って行ったアレックス。いつまでも彷徨っていたけれども、やっと過去の思い出から解き放たれて「あの世」へと去って行ったイブ、リュドヴィーク…。あれらの主人公たちが、オギーそのものなのだと、やっとわかったような気がする。

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ABE

nice!ができないので、コメントで。「nice!」
今回の荻田センセイの退団については本当に残念で、「外でもがんばってください」「これからのご活躍をお祈りします」と素直に言えない気分だったので、「ウンウン」と同意しつつ読ませていただきました。
私は待ち続けたいです。いつか荻田センセイが戻ってくる日を。
by ABE (2008-09-18 03:22) 

竜眼

ABEさま、コメントありがとうございます!
そうなんですよねえ、ジェンヌさんに対するように「ご卒業おめでとうございます」と言えたらいいんですが。。。とても言えません。せめて袴で大階段降りるとか、していただかないと…(それもコワい)。
ともに待ち続けましょう。大きなシャケになって帰って来るのを信じて。
by 竜眼 (2008-09-18 22:14) 

マダム・ヤン

こんにちは。

ショックですT_T
「オギーをつなぎとめておけないタカラヅカ・・・」、私もこの事を一番に感じました。
本当に悲しいです。

by マダム・ヤン (2008-09-19 12:23) 

竜眼

マダム・ヤンさま、こんにちは。コメントありがとうございます(> <)。
あたってほしくない先生はご健在なのに、なぜオギーが退団なんでしょう…タカラヅカの将来が不安だし、悲しいです。
by 竜眼 (2008-09-19 22:38) 

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