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帰還不能点(配信) [観劇メモ(ヅカ以外)]

BSでやっていた『あの記憶の記録』『熱狂』を見て
はじめて知った劇団チョコレートケーキ。

『あの記憶の記録』は、
ユダヤ人収容所で同胞を殺す役割をさせられた「ゾンダーコマンド」を題材にした作品で、
重…っ。激重…っ。
かわいい名前とは真逆。

でも、だんだんいろんなことが明らかになっていくドラマチックさや、
最後に少しだけ希望があったりとか、
演劇ならではの面白さがあって、すごく良かったです。
この劇団は、賞をたくさんとっているんですね。

次に公演あったら絶対行こう!! と夫と話していたのですが、

コロナ感染大爆発ですよ…。

ビビりな夫が「配信があるなら配信で」と主張し、
そうこうしているうちにチケットが売り切れ。
次は心置きなく生で観たいなあ。


帰還不能点というのは、飛行機が戻れなくなる、燃料が半分になったところ。
日本の近代史では、対米戦の決め手となった
昭和16年7月の仏印進駐を指すそうです。

ちょうどその頃、各省庁から集められた若きエリートたちが、
日本がこのまま戦ったらどうなるかを予測させられた
「総力戦研究所」というのがあった。

彼らは「アメリカには絶対に負ける」と予測したけど、
そうはっきりは言えないので、それとなく上に伝え、
東条陸軍大臣はご立腹だったそうな。


そのメンバーが戦後5年経って、
居酒屋に集まって思い出話をする、というお話です。

なんと、直前にたまたま、『昭和16年夏の敗戦』という、
「総力戦研究所」についての本を読んでいたことと、
なんとなんと、私の勤務先のかつてのNo.2が、
この「総力戦研究所」に所属していて、
しかも、この舞台の主人公のモデルである!
ということもあり、のめりこんで見ました。


前半は、彼らが「どこが帰還不能点だったんだろうね」と、
当時の大臣たちになってお芝居をする、という趣向。
次々役を変えるので、ちょっとまどろっこしいし、個性が見えない、
ちょっと教材ぽい(ていう感想をツイッターで見かけて、確かに)。

でも、歴史上、そういうことがあったんだー、
近衛文麿と松岡洋右ってそういう人たちだったんだ、
戦争責任は軍人と天皇だけじゃなく、官僚の責任も大きかったんだなあ、
と、勉強になる。

とはいえ、さすがにこのまま続くわけなかろう、
と思っていたら案の定。

すでに故人となったメンバーは、なぜ死んだのか、
という謎がだんだん明らかになっていきます。

そして、主人公が突然、「あの日、広島にいたんです」と言い出す。
そうなんです、彼は被爆してるんですよ。

帰還不能点の責任は、
近衛や松岡や軍にだけあったわけじゃないんじゃないか、
広島で吹っ飛んだ街とものすごい数の死体を見たら、
自分たちに責任がなかったとはとても思えない。
あのとき、自分たちは負けるとわかっていたのに、なんで何もしなかったんだ。

現代にビシバシ来る話です。つらい…!

そこからの展開はウルウルしました。

この脚本の着想の始まりは、
「総力戦研究所にいて、しかも被爆したこの人は、
自分の責任をどう思っただろうか」
ってところだったと思います。

でも現実には、主人公のモデルになった人は、
この舞台と違って官僚を続けたわけです。
弱小のお役所とはいえ、No.2として乞われるほど出世した。
官僚らしいやり方で組織を立て直した、と言い伝えられています。
実在の彼は、昭和16年のあの夏のことを、
そして昭和20年8月6日のことを、どう思っていたんでしょう。

そして、この舞台では死んでしまっているメンバーも、
モデルとなった実在の人物は、日銀総裁にまで出世している。
どう思っていたんですかね。

現実の人間のほうが、より「複雑怪奇」なんだろうな、と
そのことにもしみじみしました。


役者さんたち、劇中劇をたくさんやっているので、
この舞台での姿が素だと思ってしまいそう。
(配信の最後についてる座談会のほうが、
現代人の役をやっているように思えるぐらい 笑)
外務省出身の役の二人が、いい声だったな。
みんなに愛着を持ちました。

劇チョコ、過去作品のDVDがあんまりないんだよなー、売ってくれー。
全部見たいー。


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コメント 2

ネリ

「悲劇喜劇」5月号に、本作の脚本が掲載されてましたね。こういう作品は特に、俳優さんの声や(役の上での)品性によって、受ける印象が変わってくるので、生で観たいなと思いました~。
by ネリ (2021-04-17 20:19) 

竜眼

あっ、そうなんですか、脚本で読んだらどうなんだろう。チェックしてみます。配役は稽古しながら決める劇団だそうで、ますます脚本読解の難易度が高そうです^^;
by 竜眼 (2021-05-04 18:18) 

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