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項羽と劉邦っていうより、項羽と虞美人と桃娘(2) [観劇メモ]

*2/20 最後から2段落目を改訂しました。


おもしろ場面だけ抜き出したら、なんだか俗っぽくなっちゃいましたが、いやいやそんなことはなく、とても文学的で、読んでるだけでうっとりしそうな戯曲です。

ただ、やっぱり舞台だし、セリフ中心の戯曲なので、戦闘の場面はほとんど無く、兵法の話もそんなには出てきません。なので、本来、劉邦の部下として大大大活躍の韓信(みわっち)、張良(まっつ)、蕭何(アキラ)は、長與版ではそれほどは出番がありませんでした。

むしろ、韓信は桃娘との絡みが重要なのかも。(あと、劉邦が項羽にバカにされるとき、韓信の有名な股くぐりを見習う、というくだりもあります。)

韓信 貴女は私を闇の牢獄から解放してくれた自由の天使だ。わが運命が憧れていた恋人だ。(桃娘を抱こうとする)
桃娘 (逃げて)待って下さい。貴方はまだわたしに触ってはならないのです。(すすり泣く)
韓信 どうしたのです!
桃娘 わたしは人殺しです……。
韓信 貴女が人を殺した? いや、天下に人殺しでない者は一人もない。(略)
桃娘 そればかりではないのです……(泣く)わたしは……わたしは呪われているのです……
韓信 今時呪われていない者は珍しい。では誰かが貴女を踏みにじったというのですか。けがしたとでもいうのですが。そんなことを訊くのもたまらないが。
桃娘 みんな貴方のためです。貴方と一緒になりたいために……


こ、これは昼ドラか!?

昼ドラというか、もはや大奥なのが、呂妃が虞美人を侮辱する場面。

虞姫 (ヒステリカルに)ああ、わたしはもうたえられない! お前は何だ……お前は……恩知らずの人でなし奴。鬼婆!(言葉を継げずにただ狂的に身体を揺すぶりて泣く)
呂妃 何ですって? わたしが恩知らずの人でなしで、鬼婆だって?(略)このアマは…(扇子にて虞姫の額をピシャリと打つ)
(虞姫短剣を抜きて呂妃に斬ってかかる。(略)呂妃は「おのれ」と言いながら虞姫をその場に突き倒し鞭にてピシピシ虞姫を打擲す。


じゅ、じゅりあ、また鞭かよ! 芳玉蘭再び!?

またも、おもしろ場面ばかり抜き出してしまいましたが。

呂妃は歴史に名を残す、ちょぉぉぉ怖い人ですが、長與版では、項羽の人質になって息子を殺されたために劉邦のことも恨んでしまう、という設定で、なるほど説得力があります。

劉邦は、忍耐強くて優しくて賢い人。でも、それは項羽の破滅を際立たせるための存在って感じ。劉邦は立派な人、だけど項羽は鬼神。それも可哀そうな鬼神。項羽が横山版よりもずっと不遜で、尊大で、可愛げがなくて、だけどすごく切ないのが、泣けます。後半は、王になって誰も信じられなくなって、虞美人の入れたお茶しか飲めなくなっちゃうの。(孤独な王の不幸って、類型あるよね。)

殺したやつらが夢に次々あらわれて苦しめられる、項羽の叫び。

項羽 俺は生まれながらにして強い翼を与えられた。俺はそれを振るわないわけに行かなかった。そしてそれを振るえば俺はいやでも高く飛ばないわけには行かなかった。が、その卓越が俺の禍いになったのだ。はは。
虞姫 誇るべき禍いですわ。


はうう。

横山版を読んでいるときは、どうしてもSな項羽がずほ、優しい劉邦がまとびさん、ってイメージだったんだけど、長與版を読むと、逆もアリかな、という気がしてきました。「ガラスの仮面」の「二人の王女」の故事(違)にならって、逆イメージが吉と出る、あれですよ。きっと、劉邦はキリリと鋭く、そして、項羽は苦しくて切なくて、虞美人には甘〜い甘〜い男になるに違いないです。

そして虞美人の覚悟。

虞姫 (略)わたしはまだ二十七だ。体はまだ衰えてはいない。しかし牡丹の花の寿命が短いように私も二十七年の間に永い女の一生を咲き尽くしたのだ。わたしを踏みにじりたいものは踏みにじるがいい。しかしわたしを生きたままで踏みにじることは出来ない。大王という木の高い枝の上でのみ咲くように生まれたわたしはその木を切り倒す者どもが土足でわたしを踏みにじる時、もはや大王のために死んでいなければならない。(略)わたしはこのうえなお生きながらえてあの方の邪魔になるより、苦痛になるより、恥さらしになるより、早く死んでしまいたいのだ。

はうう。やっぱりタイトルロールは虞美人なわけで。

項羽は「力」。虞美人は「美」。その二つが並んでいる姿は、究極に官能的。エロス&タナトス。一人の人間というよりも、力の象徴、美の象徴、神なんだろう。まるで、タカラヅカのトップコンビみたいにね。

もちろん、昔よりも男役の比重が重くなっているタカラヅカですので、劉邦ほか、武将たちの役の比重はキムシンも変えて作るとは思いまする。ちなみに、長與版にも横山版にもない役名は、紅林(一花ちゃん)=宋義の稚児って…。王媼(梨花ますみさん)=衛布(みつる)のスパイですと!? 楽しみー。

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コメント 2

はるすかえ☆

あっちこっち出没でスミマセン…。
虞美人。はじめは「?」と思ったのですが、
「項羽と劉邦」でへぇ、と。なに?劉邦?劉邦とくれば呂后じゃないか!
実は、不肖私、卒論テーマが呂后だったのでした。ハズカシー。
いやぁ、いろんな意味で感情駄々漏れなオネーサンですよねぇ。
やっぱりじゅりあ嬢でしたか、って感じでニヤニヤしてしまいます。
作品そのものにはあんまり関わらないけど、
手元に残してる参考資料引っ張り出して読んでみようと思ってまーす。
あぁ、これも私は観に行けるのかしら…。
by はるすかえ☆ (2010-02-20 21:06) 

竜眼

ひぇーっ、呂后を卒論で!? すげー。
っていうか、やっぱりそういう女性がお好きなんですね?(笑)
いろいろ教えてくださいませ!!
じゅりあの毒婦っぷり、楽しみですわ。

by 竜眼 (2010-02-21 18:21) 

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