キネマと恋人(シアタートラム 12/3 13:00)
昭和11年、とある地方の架空の町(方言も架空!)、
映画好きな主婦ハルコが、映画の中から出てきた登場人物と恋をする!
荒唐無稽で、下手したら滑ってしまいそうだけど、
すべてが上手くかみ合って、笑って泣いて、楽しいエンターテイメントでした。
もっと大きな劇場でやってもいいんじゃないかな。
劇中劇の時代劇、それっぽく作ってあるのに、
ストーリーが「江戸の町にミイラが!」という、
当時だったらありえない感じ(ミイラは紹介されてたかもしれないけど、
時代劇と合せて笑いになるのは現代のセンスだよねえ)、
そこで、ががーっと笑いに引きこまれた。
登場人物が一人いなくなったから話が進まなくって、
残りの登場人物が映画の中でずっと花札してるとか、
ネタとして面白いことがわんさかある。
でも根底にあるのは、映画への愛。役者への愛。
登場人物に恋をしてしまう気持ちは、
役者にはまった人なら誰だってわかるよねえ〜。
それと併行して、役者本人とも恋をしそうになるのが奥深い。
「あの作品のあの役、とっても素敵でした!
○○っぽかったです〜(はぁと)」
「あれは○○を意識してたんだよ、わかってくれたのは君がはじめてだ!」
なんてやりとり、
役者とファンの間にだけ起こり得る両想い!
あるある! いや、そのまんまは経験ないけど、
でも似たようなことあるよ! 気分だけかもしんないけど、ある!
この場面、ウルウルしちゃう。
映画の登場人物との恋は実るわけないけど、
役者さんとの恋は実るかもしれないよね、
と思わせておいて…
まさかのビターエンドーーー。
役者とファンの間にはやっぱり大きな河があるんだよねえ。
でも、ハルコがいたからこそ、彼はスターになれた。
ファン冥利に尽きることなのかなあ。
DV夫の家には戻らず、せめて妹と暮らして、
幸せになってほしいな、ハルコ。
そんな、後先を友達と語り合うぐらい、
ハルコに感情移入していました、我々。
ハルコは緒川たまき。
声が素晴らしいのよね、この人。トップ娘役の風情なのよね。
健気で、おとぼけで、クラシカルで。
憧れの役者さんが妻夫木聡。
舞台で初めて見たけど、悪くないねえ。スターさんだねえ。
顔が大きくて濃くてちょっと大芝居で、本当に昔のスターさんみたい!
ハルコの妹ですぐ男にだまされるミチルがともさかりえ。
この人も舞台で初めて見たけど、すごくいい。
幸薄いのに気が強くて、男の前ではデレデレで、切り替えが上手い。
ハルコのDV夫の人も上手かった。怖かったよ〜。
大スターさんが橋本淳くん。
ほっそり怜悧で、妻夫木のことを嫌ってるし、
ともさかりえをポイ捨てするしで、わるーい人でした。
でも劇中の時代劇では篤実な感じなの。演じ分けが面白い。
「この作品の中の半次郎は、寅蔵のことが好きなのよ、
いくらあんたが高木くんを嫌いでも、それは変えられない」
という脚本家の台詞も良かったなあ。
作品の中の登場人物はちゃんと生きているんだよね。
その脚本家が村岡希美さん。
この人も、出てくるとちょっとレトロになるよね。
だから好きなのかもな、自分。
(しかし、当時女性の脚本家なんていたんだろうか。)
みなさん、ちょっとずつ違う役も演じていてそれも面白かったけど、
着替えが大変だろうな。
場面転換がモダンな踊りで、ちょっと間延びしかかったけど、
あれは昭和初期にはやっていたモダンな舞踊のイメージなんだろうか。
橋本くん演じる大スターさんが、ファンにサインするところの振付なんか、
ものすごく面白かった。
衣装も可愛かった! 靴下履きたくなった。