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春の雪(日本青年館 11/3 15:00) [観劇メモ]

こういうの、すごく好きです。万人受けするかわからないけど、私にとってはこういうのが「宝塚」を観る楽しみです。基本は大衆演劇なんだけど、そこにねじこんだ「文学」のかほり。細やかな台詞と演出で表現される心理描写。たまりません。こんな人、近くにいたら迷惑だけど、その迷惑なぐらいの過剰な心情こそが、「文学」なんですよ。

大正初期の貴族社会の退廃。それに対する、登場人物の処し方が様々に描かれていて、重なり合って行くのがとても良かった。

維新の時代を懐かしみ、息子(松枝伯爵)に不満を抱いている、だけど問題が起きた時はやはり家の対面を上手くつくろってしまう清顕の祖母。ただおろおろするだけの綾倉伯爵。そういう社会が嫌でたまらないのに、逢い引きをお膳立てしてもらうと乗ってしまう書生飯沼。欲望を押し殺すつらさを理解しているけれども、決して狂うことはない本多。伯爵のお手つきになることを当然だと思っている女中みね。

清顕は、そうした社会を侮蔑しながらも、この中でしか生きていけないんだよね。だからこそ、聡子との恋に燃えたわけで。それを本多が「不可能だから魅せられたんだろ」と指摘するのが、とてもわかりやすい。そして、飯沼が最後に新聞?を配るシーン、原作では伝聞だったけど、本人が出てきて「最初から狂っていたのさ!」と言うのが、まさにテーマそのものに感じたなあ。

かように、原作の雰囲気を壊さずに、よりわかりやすくしてあるのが感心感心。本多が法廷で見た殺傷事件と、清顕の情事の告白を重ねてみたり、治典殿下がレコード好きだというところから、実際に曲を聴かせてみたり(あれってなんて曲だっけ?)。殿下が聡子を帝国劇場で一目惚れ、しかもその演目がカルメンというのは、完全にオリジナルだけど面白い。創作と言えば、聡子が最後に「松枝さんとはどなたですか」と言うのも、オリジナルだよね。びしっと決まる。

背景の洋館風のステンドグラスと、和歌の書かれた障子風の壁がまた、上手い。馬車や自動車の装置も面白かったし、最初の情事に使われる赤い椅子?も和洋折衷で面白い。

清顕のみりおは、もう…ポスターの時から「これは!」と思ったけども、当たり役だ。これからは「清様」と呼ばせていただきます! 紺の学ラン、コート、もっさりしたニット、太めの眉に強い目元、麗しすぎる……。この人、本当にいいところの出なのかな。人柄はよく知らないけど、高貴ゆえに、罪の意識なく、残酷なぐらいわがままになってしまう、というのがとてもはまっていた。

ヒロイン咲妃みゆは、顔も声も遠野あすかに似ているね。公爵家の令嬢というにはちょっと庶民的かな。原作だともっとツンツンした美女のイメージだし。だけど悪くはなかったです。聡子のやや子どもじみた部分が上手く出ていた。(注:いつも96期問題を批判している私ですが、批判の対象は組織と首謀者です。念のため。)

飯沼のトシくん、本多のたまきち、治典殿下のちなつちゃんが、ピッタリな役で。みっしょんがちと出番少なくて残念だけど、あーちゃん、あちょう、と上級生が安定。輝月ゆうまの清様のお父さん役や、白雪さち花の尼さん、琴音和葉の聡子のお母さん役、みねの晴音アキといった下級生もすごく上手くてびっくり。夏月都がすっかりおばあちゃん芸を身につけてるし(笑)、ゆりあちゃんや、たかちくんといったダンサー職人の芝居での使い方もGJだし、なんていい配役なんだろう。

そして、美穂圭子の蓼科役が素晴らしかった。一癖も二癖もある、老いた召使い。飯沼に対する軽蔑の目つきなんか、すごかった。自殺するときの笑い方も。この人は歌の人で、演技はワンパターンかもと思っていたけれど、ロミジュリの乳母といい、演技もすごいんだなあ。

というわけで、生田大和の東上は大成功だあ。若手で唯一(笑)、期待してます。次も頑張れー。

(しかし輝月ゆうまくんの扱いはなんなんだろう。顔も役柄も好みなんだけど(オッサン好き)、まだ若くてあれだけ身長あるんだから、路線ぽい役をやらせてあげればいいのに。上手いからって役柄を固定しすぎな気が。それとも、オッサン役も下級生がやる時代ってことなの? 上級生をはやく辞めさせよう作戦とかだったら、イヤだなあ…。)
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