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南の島に雪が降る(浅草公会堂 8/8 17:30) [観劇メモ(ヅカ以外)]

泣かないわけにはいかないですわ、これは。「万感の思いをこめて」と言ってました、最後の挨拶で。

戦後70年ということで、同時期に複数の劇場で上演されているようです。

暗転が多かったり、ややまったりしているけど、中日劇場主催だから年配の人向けなのかな、とそこは割り引きました。



スカパーで昔の日本映画をよく見ているのですが、大きな目に丸い顔の、面白い脇役がしょっちゅう出てくるのです。加東大介という人だそうで、長門裕之・津川雅彦のおじさんで、沢村貞子の弟だという。へえ~~。

この加東大介が、戦時中、召集された南の島で演劇をやってたという、なんと実話なんですねえ。

それを、柳家花緑が演じるという。脚本・演出は中島敦彦。『宝塚BOYS』の組み合わせじゃないですか。好きな川崎麻世も出るし、タニも出る。ということで、チケットを買いました。

浅草公会堂は公民館ぽい劇場だけど、加東大介が浅草出身だからということなのかな。



役者なのに召集された加東さん、同じ部隊に偶然、顔見知りの演劇評論家がいて、よくよく聞いてみると、三味線がひける人、歌手、といろんな人材がいることがわかる。

派遣されたニューギニアのマノクワリは、飛行場を作ってはいるものの、作った部分を米軍に爆撃されて壊されるだけ。戦闘で死ぬ人はほとんどいないけど、空しい労働と、南国特有の病気と、飢えで、次々人が死んでいく。

で、上官の判断で、士気を高めるために演芸部隊を結成することになったのですね。

オーディションを始めると、兵隊さんというひとくくりでは見えてこなかった、いろんな個性が見えてきて、楽しい。お芝居って「いろんな人がいるんだなあ」ってことを、リアリティをもって見せてほしいものだから、ワクワクする。そして、こんな人材を戦争に送り込むことの空しさをひしひしと感 じる。

デカくてゴツい女形に、どっと笑いが起きるんだけど、でもそんな女形でも、スター扱いで、兵隊さんたちが握手を求めてきたりする。笑えるけど、泣ける。

たいした材料もないけど、一生懸命舞台美術を造り、衣装を縫って、立派な芝居をして。自分のできることを一生懸命やることの素晴らしさ。泣ける。

劇場を立ててもらったときには、おいおい泣きました、私。自分のできることで、ほかの人を喜ばせられる、なんて尊いことなんだろう。

東北出身の兵隊が、死の間際に雪が見たいというので、舞台にいっぱい雪を降らせる。ただ紙を切っただけの雪なのに。うおおおお。



この話、加東大介自身の主演で映画になっているそうです。とてもコミカルなものだそうです。見たいなあ。

一方で、右翼が好む話でもあるらしい。私の頭では全然理解できないんだよなあ。戦争で亡くなった人を悼む気持ちはわかるけど。「日本人だけが素晴らしい」「戦争になったら同じように立派に死のう」っていう論調ではなく、「戦争は二度としないようにしよう」がしっかり伝わる作品だといいなあ。

という懸念がありました。

特に彼らは、人を殺すこともあまり無く、従軍慰安婦もおらず(来るとき沈んじゃったそうだ)、加害者という側面が少ないという特徴があるそうです。→http:www.keiwa-c.ac.jp/wp-content/uploads/2013/01/veritas12-13.pdf



彼らは本当に健気。目の前の仕事に全力投球。それを、「お国のために」と当然のように思っているんです。なぜこんな目にあっているのか、なぜ戦争が起きたのかは、あまり考えないんですね。当時の人なら、それが普通だと思うから、そこを責める気にはならないです。

でも、現代に上演するからには、懸命さを讃えるだけでは、恐ろしい考え方につながってしまうよね? 目の前のことに一生懸命であると同時に、大局的な視点も持っていたいよね?

それが、上手いことに、外国人女性を登場させたのでした。多分、原作には存在しない役。

もともとオランダ領だったので、オランダ人宣教師とインドネシア女性のハーフで、父親は殺され、母親は帰国させられ、自分ははぐれた妹を探しているんだって。妹探しを、加東さんが手伝ってあげると約束するという設定。ちょっと夢物語的ではあるけど、この人が「なんでこんなことになってるの?」「おかしくない?」と問いかけるの。

しかも、見つかった妹がカタコトで「日本人は帰れ!」と叫ぶ。「いや、俺たちだって、来たくて来たわけじゃないんだ……」という、気まずーーい雰囲気。兵隊さんたちは国策の被害者であると同時に、現地の人からしたら加害者でもあるんだ、ということが端的にあらわれて、とても良かった。

また、娯楽がなければ人は生きていけない、という感動的な事実の裏面には、娯楽を与えておけば民衆は嘘に騙され続ける、という事実もあるよね。本土でも、戦局が大変になったら、娯楽を重視するようになった。マノクワリの兵隊さんにとっては、生きるよすがだったけど、それを利用する考え方もあることを忘れてはいけない。

加東大介は復員後、芝居をやめようと思ったこともあったそうだ。そういう面にも気づいていたんだろうか。また、演劇部隊は特別扱いをされていたから、そのことへの後ろめたさも当然あったと思う。

それと、女性に対する思いね。劇中劇が『瞼の母』であることといい、女形への憧れといい、男ばかりで劣悪な環境にいると、女性がものすごく神聖視されるんだなあ、過度な憧れは差別と表裏一体だけど、この場合は仕方ないよなあ…と思った。



花緑は実直で安心して観てられる。笑いの間が上手いしね。むさくるしい男たちをまとめる役というのは、『宝塚BOYS』と同じ。この人、声質はいまいちだと思ってきたけど、劇中劇での低い声がとても良かった! 落語を披露する場面もありました。

タニがねー、加東大介の妻と、外国人女性の二役なんだけど。妻役があまりにも大根で、おいおいおいおいおい! と思ったのもつかのま、外国人女性がカタコトでしゃべるのが、もうねー、超絶感がぴったりで。浮いた役がちゃんと浮いてできるっていうのも、元ジェンヌならではだよなあ、と納得。 ただ、男役披露は一回だけで十分かなー(知名度からすると)。

麻世は歌手の役。もうちょっと濃い役でもよかったかな~(私の好みとしては)。いかにも昔風の歌い方をしたりして、面白かった。外国人女性は怖いぞー、という内輪ウケのネタも。

酒井敏也が衣装係。この人すごいスターだわ。芝居が下手っていう設定で、もっすごい笑える。

女形で門戸竜二…聞いたことある、大衆演芸の人だね。ごつくて面白い女形は元関ジャニの人だそうで、劇中劇では本職の門戸さんがやってました。兵隊姿でも綺麗なお顔立ちで目立ってました。

加東さんの上官? 松村雄基が、思ってたより全然良かった。テレビドラマのイメージで怖い顔の印象しかなかったんだけど、ふつーにかっこよかっ た。

「浜辺の歌」「椰子の実」の二曲がとても効果的に使われてた。客席の誰もが知っていて、南国風で、ちょっと郷愁を誘われて。感情をもっていかれる。やっぱり、音楽、娯楽の力ってすごいなあ、って実感させられた。



後でパンフを読んだら、劇場を立てたのは昭和20年の4月。その後1年2か月も上演してたらしい。終戦後、8か月も帰れずにいたのか……。演芸でも観なくちゃ、やってられないよね。

二度とこんな馬鹿なことが起きませんように。万感の思いをこめて。


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