SSブログ

ペール・ギュント(KAAT 7/18 13:00) [観劇メモ(ヅカ以外)]

(おおいにネタバレしております)


「ペール・ギュント序曲」という曲しか知りませんでしたが、イプセンの戯曲なのですね。最近、イプセンづいてる!?

「人形の家」や「海の夫人」よりもずっと前、1867年、若いときに書いた作品だそうで、もともとは民話の登場人物だし、旧来の演劇の要素もあるとのこと。

でも、テーマは「自我なんてくそくらえ」なのです。すごいねー、150年前、日本だったら近代的自我の存在すら認識していないような時代に、すでに「自我」「自分探し」のヤバさに気付いていたんですねー。

自分は王様になるんだーと大言壮語を吐き、話を盛って盛って目立ちたがり屋の、子供みたいなペール君。世界を放浪して、お金持ちになったりもしたけど、結局……

手をかえ品をかえ、「自分らしさなんて不要」「あるがままに生きろ」というエピソードが登場します。それぞれのエピソードがどれも面白い。森の妖精がでてきたり、いきなりインド行っちゃったり。

精神病院の場面は白眉。精神病院で「王様だー!」って崇め奉られるの。でも、どう考えても、おかしいの。王様になりたい俺って、なんだったんだろう…

最後、ボタン職人という名目の死神があらわれて、あんたの魂をほかの魂と溶かして、新しいボタンにするよって言うのが面白い。それを「いやいや、自分、すごい悪人だから! ほかの魂と一緒にしたらやばいから!」って、「その他大勢」になりたくなくて、必死に抵抗するペール君。

せっかく待っていてくれた恋人ソールベイに、「何十年も放置して、俺、悪人だよね? 悪人って言ってよ!」と詰め寄るのに、ソールベイがひたすら愛を歌うのが、ねじれまくっててゾクゾクする。

ボルテールの「キャンディード」にも似ている面もある。世界を放浪して(帝国主義的な世界観)、人生の意味を考える、というつくり。「キャンディード」は最後、淡々と耕す(端的に言うと農業だけど、精神的な意味も含まれている)っていう結論になってた。でも、「キャンディード」は「善悪」がテーマだったけど、「ペール・ギュント」のほうが近代的だな。

ペール君と、お母さん、ソールベイ以外は、大勢の役者が、かわるがわるいろんな役を演じている(一応、似たようなキャラクターを担当しているみたい)。それは、「群衆」という意味なのかな。ペール君は「悪人でもいいから、すごい人」になりたかったけど、「いやいや、誰だってその他大勢なんだよ」という意味なんだろうな。


かように、とっても面白い話なんだけど、演出が凝りすぎていて、わたし的にはすべっていると感じた。

基本、みんな普段着なの。現代劇でもないのに普段着なんて、見たくないよー。高いお金払ってるんだから。

セットは廃墟で、外からは空爆の音がするんだけど、どういう意味なんだろう。廃墟は病院で、そこで生まれた赤ん坊が見ている夢、みたいなつくりになってるんだけど(ソールベイはじつは看護婦さんだというオチ)、それも全然わからない。生きること=戦いだってこと? それとも戦争になりかねない今の世の中で生きるということを考えろって意味? わからん。ずっと待っていたソールベイが「都合のいい女」にしか見えないことを解消するため??

そんなヘビーなセットの中で、民話的なエピソードがつづられるから、合っていない。もっと、抽象的で綺麗なセットにすればよかったのに。
うすいビニールを雲や海に見立てて使うのはとても面白かったけど。


主演はジャニーズの内くん。クリエでジャニーズ公演があるときにポスターを見て名前だけ覚えてた。タッキー系の見た目なのね。芝居は悪くないが、いわゆる大芝居。スターさん芝居。だから、とんでもない性格のペール君でも、まあスターさんだからしょうがないね、というふうに納得できる。歌と踊りがあるのは、ジャニファン向けなのかな? 歌はわざと下手に歌ってたのかな?(「ガイズ&ドールズ」の主演してたよね? 内くん)

お母さんは前田美波里で、民話的な世界観に合ってた。ソールベイは藤井美菜という人。もっすごい棒読みで、でもこれなら一目ぼれするよねという美しさ。研1でバウヒロインに抜擢されて、あちゃーな出来なんだけど、でも数年後にトップ娘役になるんだろうな、という感じ(ヅカファンにしか伝わらない比喩)(でもけっこうキャリアあるんだな、ほー)。橋本淳くんは間抜けな役担当とでもいうのかな、精神病院で「自分はペンなんです」と主張する患者で、ペン先を削る=首切る場面が、怖いんだけど戯画的で上手かった。ボタン職人=死神で、「空」(くう)の役の人は…河内大和、森の妖精の王女様でつきまとってくるのが桑原裕子、あたりが印象に残りました。

音楽がヘビーなジャズ(なんだそれ)で、かっこよかったです。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。