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死と乙女(シアタークリエ 3/24 18:30) [観劇メモ(ヅカ以外)]

すんごい集中して観ちゃった。刺激的でした。

(以下、ネタバレあり)



南米のどこかの国、独裁政権が倒されて、民主主義がはじまったばかり。海辺の一軒家、帰って来た夫は、タイヤがパンクしたところを助けてくれた、 と、偶然知り合った人を連れてくるんだけど、それは、15年前、反体制運動をしていた自分を監禁してレイプした軍関係の医者だった! 

夫は、その日、かつての政権でひどいことをした人たちを査問する委員として大統領に抜擢されたという。それとリンクして、一軒家の中で、被害者と加害者、そして弁護士(夫の職業でもある)兼裁判官兼傍聴人の「査問委員会」が始まる、というわけ。

夫の立ち位置が面白い。いろんな立場を象徴しているんだろう。独裁政権が倒された後の、民衆のそれぞれの立場。

レイプされた妻を拒否しないぐらいの度量はありつつ、いない間浮気してた情けない面も発覚(おいおい)、弁護士として「戦いは新たな戦いを生むだけだ、許すことが必要だ」と正論を言うんだけど、そんなん被害者からしたら何の意味も持たない、 せっかく抜擢された地位を失いたくないという保身、なんとか殺人だけは起こさないように必死に仲介者となる間抜けさ、そのために偽の自白も強要しかねない(弁護士のくせに)、、、

それと関連して、夫婦関係が次々いろんな様相を見せるのが興味深い。ある面では信頼しているけど、ある面では絶望している、時にだまして利用したり、でも本当に愛を求めたり。

この査問委員会はどう決着するのか、被害者は復讐するのかどうか、被害者は何を望んでいるのか、人が人を裁くとはどういうことか。それでどんどんひっぱられる。

被害者のユウヒさんがまた、狂ったようになるのが美しくてね。すっかり「女性」らしくなったね。あの硬質で冷たい目で加害者をジローっと見たり、 策略を明かしたりするのが、ゾクゾク。この人、男役時代から「傷ついている状態」が本当に似合うよねええ。(ただ、普通の奥さんとしてのセリフは、ちょっと大芝居で違和感があった)

多くの女性は、被害者にどっぷり感情移入すると思う。たとえレイプされたことがなくても、そういう視線、社会構造はそこここに遍在しているもの。 何度も「殺 してしまえ!」と思ったよ。加害者をいたぶったりする様子は、小気味いい。ラストあたりのセリフには「意義なし!」(左翼用語 笑)と叫びたかったぐらい。

加害者側の心理のほうは、それほどクローズアップされていなかった。思いもしなかった自分の中の加虐性が発揮されてしまう…という独白で、自分にもそんな面があるのかなあ、と少し感情移入しなくもなかったが。そもそも本当に加害者なのか、別人なんじゃないか、という余地があるっていう設定なのかもしれないけど、私には100%本人で有罪だと思えた。

だって、ネタバレになってしまうけれども、「私は誰も殺さなかった」と胸をはるんだよ。恐ろしい。恐ろしいね。査問したって、結局これなら意味ないじゃん! じゃあ査問委員会は何のためにあるのよ。

たくさんの男に乱暴されたけど、この医者を一番憎んでいるという設定は、官能的な意味もあるのかな。でもそういう女性の感性すらも、男は「女はレイプを望んでる」とかすり替える。それがわかるから、被害者はさらに憤る。あるある。あと、見るからに乱暴そうな人に乱暴されるのと、一見助けてくれそうに見えた人に乱暴されるのとだったら、後者のほうがつらい、というのもあるよね。

医者を演じる風間杜夫の、紳士なんだけどふてぶてしい感じ、しかも今はちょっとお爺さんって のが、またぞっとする。

夫役の豊原功補はテレビで見るよりずっとかっこよかった。声がよく通る。

で、最後、今までのことはすべて芝居でした、というような仕掛けで終わるの。うーん、意味深。

詩的なセリフも多くて、戯曲も読んでみたい。照明もとってもきれいでした。



…リカちゃんはこういうがっつりストレートプレイ出ないよなあ。出てほしいけど、全然想像できないな(笑)



※モデルはチリだそうで、ピノチェト政権ってことか。1973年の軍部クーデターから1989年ぐらいまでずっと独裁…15年前という設定に納得 (舞台の時点は1990年ぐらい?)…不勉強で知らなかったけど、このクーデーターは1970年の選挙でできた社会主義政権を倒すものだったんだ (加害者が言うセリフにも、あいつらは社会主義で国をめちゃくちゃにするんだ、みたいなのがあった)。しかも、共産主義をおそれていたアメリカが裏で手をひいていて、冷戦が終わったから独裁政権も倒れたという。そんなんばっかりだな、まったく。。。


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