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天翔ける風に(シアタークリエ 6/13 19:00)

ドストエフスキーがすごいのか、野田秀樹がすごいのか、謝珠栄がすごいのか。

全員すごいんだと思う。

『罪と罰』の幕末版、をさらにミュージカル化。とはいえ、衣装は和洋折衷だし、お金の単位は現代だし、女性が役人になろうとしているし、あくまでも架空の幕末(それに慣れるのに少し時間がかかった)。幕間にパンフを立ち読みして、学生運動のイメージでもあることが判明。なるほどなるほど。

時代を変えるという大義のもとに、無責任に騒いで暴力をふるう愚かな大衆。それに乗せられて死んで錦の御旗にされちゃう犠牲者。志を果たす能力も勇気もなくて都会で無意味に人殺しの仕事をする堕落者。暇だから退屈しのぎにただただ騒ぎを引っ掻き回す変な金持ち。…今も同じだね。

でも主人公英(はなぶさ)は違う。能力も勇気もある。だから、思想のために人殺しをした。

『罪と罰』と同じく重いテーマの作品。その一方で、「新しい時代を!」という感じの明るめの曲もあって、最初はちょっと乖離しているような気がした。とはいえ、勢いがあるので全然退屈ではない。どうやってまとめるんだろうと思いながら観ていた。

(以下、ややネタバレ)

クライマックス、英が、殺人が間違いだったと気付くとき。それを告白するとき。それがなんと、大政奉還と同じ場面なの! というか、大政奉還をどうやって描くんだろーと思っていたら、英の告白が大政奉還の暗喩になってるの。牢に入ることが、イコール、時代が開ける。この逆説が素晴らしい。

告白を聞く英の友人才谷は、思想や暴力ではなく、情報と経済で時代を変えようとしている、当時としては先見の明を持った人物(と言えば…?)。

英が、「大川の向こうから吹く風が懐かしい」と言うその風、タイトルにもある風は、才谷が象徴しているもの、それに癒されたこと、なのかなあ。英が殺したのが金貸しだったことと、才谷が経済に携わっていることはもちろん関係あるだろうし。いろんなことがリンクしていて、ゾクゾクする。

で、英のコムちゃん! 凛々しくてイっちゃってるコムちゃんの、その冷たい器に、罪の意識が渦巻いてる様子、前のめりに舞台を歩いていくコムちゃんの横顔に、どんどん引き込まれる。

才谷の石井一孝さん! 暑苦しくて、愛嬌があって、この人なら時代を変えられると思うし、この人なら英を癒やせるという説得力がある。

なんたって、二人の、罪の告白のあとの一瞬の抱擁! 友情? 愛情? なんでもいい! ファイヤー&アイス! って感じの組合わせがものすごくツボだった。そこで「私を抱きしめるのはどんな感じ?」「人殺しって温かいんだなあ」…なんだその台詞! マジ天才!!(宝塚の脚本家って9割が才能ナッシングなんだなあとしみじみ…客席にオギーがいたよ…)

かなみんが英の妹役で、これまたトップ娘役そのものという役でねー。イっちゃってる姉に「姉さんのふるさとでありたい」と歌い、望まぬ結婚は断固として拒絶。ここでの吉野圭吾さんとのやりとりも壮絶(吉野さんていつも紫着て変人やってる気が・笑)。この妹も、既存の女性の枠に縛られているように見えて、全然そうではないのだなあ。

それぞれ、これまでいろんな方が演じてるんですね。遠藤先生(山崎銀之丞)の才谷ってどんなだったんだろうなあ。タータンの英はもっとウェットだったのかなあ。

あと、アンサンブルというか志士たちの役が重要。彼らのあり方が、テーマに深く関わっているから。で、志士たちと写真を撮るイベントがあるそうな。クリエ面白すぎる(笑)。

音楽も好みでした。『罪と罰』読んでリピートしたいかも。
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